三浪の就活がやっと終わったけど、
ブラックコーヒーを浴びた。
最後の決断
珍しく晴れた梅雨明けを思わせる7月末、僕の鬱屈した“初めての”就活も終わりを告げた。
三浪するかと思うほど長い間、全方面に迷惑をかけつつ3社で悩んでいた。
フィンテック系ベンチャー、あらゆる業界に着手する大手、広告会社。
そして悩みに悩んだ末、
広告会社を選んだ。
本当に決断力の無さに辟易する日々だった。長期インターン先に行くたび社員さんから挨拶がわりに「今日はどこ就職したい気分??」
などと言われるほど、第一志望が日替わりランチのようだった。実際のランチは必ずパンとファミチキだったのに。
それはそれはもう尋常じゃない数の(比喩)友人に相談した。
ある人は、将来性や給与なら大手だろう、転職市場価値も馬鹿高いし迷う余地なしだと。
ある人は、めちゃ良いベンチャーじゃん、大手めちゃつまんない就活やり直したいと。
ある人は、広告行きなよ、池田には一番合ってそうと。
三社三様で三者三様で、就活はどこまで行っても自分軸での情報精査と、自分との対話だなと心底思った。
決めた理由
どんな軸で選ぶか自体を悩んだ末、結局当初より掲げていた就活の軸に帰着した。
「埋もれている人やモノをすくい上げられる人になりたい」
その結果が、人やモノを、ニーズのある元へ、伝え、動かす、そんな能力の会得につながるデジタルマーケだった。
この軸は偽善のように感じるかもしれないが、実際は「なりたい」という極めて自己へベクトルの向いた自分勝手な欲求でありエゴだ。
別に頼まれているわけじゃない。潜在的に価値があるのに日の目を浴びない人やモノが、お金や見かけだけの存在に負けたり、社会から適正評価を受けていないのが見てて悔しいしイライラするから自分のためにやりたいのだ。情報の適正配置、アクセスの円滑化。
自分自身が、音楽や受験で成し遂げたいことがあっても日の目を浴びず、うまくいかず、何年も悔しい思いをしたことが大きいのだろう。そのうえで、同じように苦しむ人がたくさんいるのに、僕はたまたま、部屋の外へ戻ってこれた。本当にこれは偶然だと思う。あの日大学に受からず、部屋でもがき続けている自分が、別の世界線にはきっと今もいる。
そう思うと、たまたま戻ってこれた側の自分にしかできないこと、そんな人の気持ちに心から共感できる自分だからこそできる社会への価値提供があるはずだと思った。これは裏返せば、ここなら自分も存在価値を示せて日の目を浴びることができるんじゃないかという、自分のためでもあった。
あと、やはりどうしても姉たちの商売を将来何か手伝いたい気持ちがあった。
幼い頃から誰よりも芸術の才能に長け、国立のデザイン学科に行った姉と芸大に行った姉、その2人が今もなお埋もれていることが、小さい頃から間近に見てきた僕としてはどうも納得いかない。
あの2人は作るのは好きだが売上を伸ばす部分は興味ない、といういかにも池田家らしい性格なようなので、それを自分が補えたらという野望をずっと抱いている。
最終的に、内定者の懇親会に行き、この人達となら自分を抑圧せずに自分のパフォーマンスを最大化できそう、目指す自分になるため頑張れそうと思えたため、踏み切ることができた。
内定辞退で泣きそうになった①
問題はここからだった。
内定辞退が泥沼化しやすいことは知っていた。就活を始める際に、最も自分はやらないだろう、やりたくない、と思っていた悪手を、まさか一年後真剣に悩んだ末に自分がとっているとは思いもしなかった。
ベンチャーも、大手も、同じ日に断った。
ベンチャーにはベンチャーの夢があった。就活支援系の団体に推薦され、去年の秋ごろベンチャーの数社を中心に行われた逆スカウト系のイベントに行った際出会った会社だった。
「カンボジアで学校を」
「起業してるから、就職はまぁいい会社があればって感じで」
初め全員に向けて1分間の自己PR大会が行われたが、驚くほどテンプレのしんどい学生が集まっていた。
就活市場ではこんな人達が推薦され評価されるのか。
と何かに絶望した僕は、自己PRで場をぶっ壊し、どこの企業からもスカウト貰わないまま帰ろうと思った。
「この中で僕私、三浪だよーって方いますか?はーい僕でーすwww」
渋谷のスクランブルを全裸で歩くような感覚だった。
事故PRが終わった後、帰る準備をしていたが、まさかのスカウトを頂いた。
それがそのフィンテックベンチャーだった。
「え、どうしてスカウトしたんですか?」
予想外の扱いをされた僕は睨んですらいたかもしれない。ここがラーメン屋だったら強制退店させられている。
しかし、物腰やわらかい社員さんの返答は斜め上だった。
「実はさ、さっき手上げそびれたんだけど、実は僕も三浪なんだwww」
「ンフwww」
僕が御社を志望するにはそれだけで十分だった。3年間浪人の末に、東大に落ち私立文系に入り、外銀や外コンに受かったにも関わらずそのベンチャーを選んだらしい。やはり三浪ともなると内省しすぎて頭がおかしくなるようだ。
たしかにその会社には無限に夢があった。ベンチャーのいいところである裁量権や、個人の意志を尊重し、一方で、ビジネスモデルがアホみたいに手堅くかつ参入障壁の高い手数料サービスだからこそ、やりたくない仕事はやらなくていい、という無茶を地で行く最強のベンチャーだった。
くわえて部署の兼務も可能で、かつ業務時間の20%を新規事業の開発、運営に充ててよい、という採算度外視の、理念重視企業であり、全ての社員が経営者目線の首座を養えるといった売り文句を実現していた。理念を大事にするあまり役職も撤廃され、ティール組織をおそらく日本で一番実施している。
もし僕が入っていたら、toBのマーケとtoCのマーケを経験し、かつ新規事業にも携わり、ゼロから広告事業を作ることに従事していたかもしれない、などと夢想する。
正直、この就活を通して一番好きな企業だった。これから先もっと有名になっていくだろう。
そして三浪の社員さんや、2留の末に早稲田政経を卒業した幹部の方など、魅力的な社員さんがとても多く、誰もベンチャー特有の、自身の成功体験に陶酔しきった自己肯定に溢れる話し方をしていない、フラットに学生と話してくれる素敵な企業だった。
先ほどから偏見が滲み出てしまっているが、就活を通して感じた一個人の経験則だと思ってほしい。
そんなベンチャーに直接会いに行き、お断りさせてもらった。
どうなるかと思ったが、
「納得のいく意思決定ができてよかったね。池田くんの将来が楽しみだ。きっとこれで終わる関係じゃないから。また今度飲みに行こう」
泣きそうになった。
就活は7割クソだが、3割は人の温かさに溢れていて逆にしんどい。
社員さんは数年後独立しようと考えているそうなので、いつか、僕自身も強くなって何か力になりたい。
内定辞退で泣きそうになった②
同日、僕は大手の何ヶ月にも渡り死ぬほどお世話になったメンターさんに電話をかけた。大変恐縮だが、電話でのお断りの方が規模感的にも良いのではと思った。
「すみません、今まで本当にお世話になり、とても心苦しいのですが、内定を辞退させていただきたく・・・」
「ほうほう。どうして?」
「やはりデジタルマーケヘの思いを捨てきれず、どうなりたいかを考えた結果、営業になるなどの配属リスクのないD社に。。。」
この会社に行った場合、給与もブランドも総合的なビジネスマインドに対する若手の成長性も就職難易度自体も、おそらく数年前急いで作られた広告のD社より現状は遥かに高い。が、どんな勤務地でどんな業界のどんな職種の仕事をするかさえ、配属が決まる秋まで全くわからなかった。それでも飛び込むだけの価値は多くの人にとってあると思われた。
あれだけお世話になり、仕事だけでなく恋愛の話や社員さんの大学時代や彼女さんの話まで聞いた仲であったのに、この電話一本でさよならなのか、と自分の犯している罪の重さに頭がおかしくなりそうだった。
「なるほど。」
あー、受け入れてくれるのか。なんて優しいんだ。本当に今までありがとうございました。そんな気持ちでいっぱいだったのだが、
「うん。言い分はわかった。」
言い分は、、、わかった、、、?
おかしい。僕は内定を断る電話を差し上げた。言い分はわかったなどという会話の選択肢は僕の脳内には表示されていなかった。
「ひとまず聞いたから、来週もう一回本社来て。話そ。」
「はい。」
泣きそうになった。
進研ゼミでやったところだ。この展開はどうなるか知っている。
1日に二度も泣きそうになるとは思わなかったが違う涙を目に浮かべていた。
そして今日、僕は万全の格好で本社へ向かった。
全身黒、腕時計などを外した。
僕は他の人から、企業によってはコーヒーをぶっ掛けられるなどの話を聞いていた。金融系では、「なんで?入るって言ったじゃん。じゃあ今まであげた名刺全部返して。個人情報だから。」
などと態度が180度変わったという話も聞いた。
恐る恐るお会いしたメンターさんは、いつものメンターさんだった。
「意志は変わらない?」
「はい。」
メンターさんは諦めたような、優しい、でも目の奥では笑っていないような微笑で簡潔に話し始めた。
「そうか。まぁ、そしたら池田ァに言いたいのは2つだけ。1つは、就活を通して本気で自己変革したいって思ったのであれば、その気持ちをD社にいっても忘れないで頑張ってほしい。じゃないと多分、自分のできることだけして、できないことから逃げて、話の合う人とだけ話して、今と変わらないコミュニケーションを続けて、ウチではできたであろう人間的成長ができないと思う。
あともう1つは、競争率とか、機会を得られるようにとか、そんな相対的なことばっかにこだわって意思決定する価値観から早く抜け出したほうがいいよ。もっと大事にした方がいいのは、自分自身が何を成し遂げたいかだから。正直、俺や先輩は、池田ァは“逃げた”と思ってるよ。」
死ぬほど悔しかった。苦い。苦すぎる。これなら物理的にコーヒー浴びた方がまだ後味がよかった。
この会社に入ったらきっと僕はビジネスマンとしても人間としても強くなったと思う。
しかし、その強さは自分の望む強さなのか、という問いに最後まで答えが出なかった。
社員さん達や他の内定者を見ていて、僕が目指すべきはここなのか、最後まで悩み続けた。
正直、ここに入った場合、タクマと同じ会社で働けるというあまりに魅力的な、暑苦しい夢を叶えられたため、その夢の喪失感だけは当分消えないかもしれない。
ただ、俄然、怒りに近いやる気が湧いた。
「逃げたと思われるのが一番悔しいです。僕はなりたい自分に成長するためD社を選んだので、だからこそ、D社に入っても、御社を断ったことを後から内省した時後悔しないように、止まることなく頑張りますよ。」
「うん、そうだね。またいずれ飲みに行った時に、だらけてたら失望するからね笑」
「おいしいお酒が飲めるように励みます。本当にありがとうございました!」
こうして僕の就活は本当に全て終わった。最後まで文字通り「お前はどうしたい?」って感じで、嫌になるくらい良い会社、良い人達だった。ここまで迷った選択肢は、きっと全て間違っていなかった。
就活を終えて
大手の御社、メンターさんによって僕の内面にぶっ掛けられたブラックコーヒーはあまりにも苦く、熱い経験として心に残った。
過去を清算してスッキリ終わったはずなのに、もう未来に向けて心がモヤモヤしている。
悔しい。強くなろう。あの選択も正しかったでしょう、とドヤ顔で言える未来にしてやろうと思う。
就活は終わったが、
就活が終わった、
本当にただそれだけのことだった。