高田馬場で居酒屋探すとどうあがいても金の蔵に収束する
金蔵にお金貰ってません。
飲み屋の宝庫高田馬場
早稲田大学に入学して、僕らは靴と成績をすり減らし足しげく高田馬場に通った。
馬場は見渡す限りの居酒屋だ。
入学当初、そのあまりの活況ぶり、それでいて新宿や渋谷のようにキラキラせず、遠回しに言えば360°きったない街並みに親近感が湧くまで時間はかからなかった。
焼き鳥、焼肉、ジビエ、中華、ベトナム料理、沖縄料理、多国籍料理と言いつつ店員が多国籍なだけでよく見たらどこでも食べられるものばかりな愛すべき300円キッチン、様々な居酒屋があった。
一体これだけの居酒屋、卒業までに回り切ることはできるだろうか。
期待に胸を膨らませた
頃が、
僕にもありました。
「今日どこで飲む?」
何度このセリフを言っただろうか。
4年間でミクロ経済について考える時間より居酒屋考える時間の方が長かったかもしれない。
最初こそ、色んな居酒屋行ってみようとか思ってたものの、
居酒屋探しにも5月病は存在した。
新学期直前だけ意識高くなり履修ミスって単位落としたように、居酒屋探しも日増しにモチベは落胆した。
というのも、2、3軒行った時、僕は気づいてしまった。
「やべ、違いわかんねぇな」
あくまで、これは当方の馬鹿舌が悪いので店批判ではない。
いや、厳密には違いは分かるのだが、味の違いではなく、効用の違い、満足感の違いが分からなかった。
どこに行っても感想は「おいしい(小並)」だった。
したがって、店を選ぶ時間コストに見合う効用の増加が得られなくなっていった。
「不届き者!早稲田生の風上にも置けない!」
そんな声が聞こえてきそうだが、馬場の居酒屋選びを面倒に思ったことないなんて言わせない。
そうして僕はいつしか、
考えることをやめた。
僕らは飲みたいんじゃない。話したいんだ。
しかし、あの街は考えることを放棄するなんて簡単にさせてくれない。
いつも通り19時待ち合わせの約束に19時15分到着すると、あろうことか鳥貴族は満席になっている。
その下の焼肉も満席。
そこらのこだわってる感あるお店も案の定民度の高そうな学生で満席。
近くのちばチャンも我々の民度スカウターが壊れそうな学生が宴会席を支配しており遠目に見てもうるさすぎて入れない。
絶望の淵、
広い通りに戻った僕の視界に入ったのは、
くそドチェーン感溢れるフォントの看板。
そう。金の蔵だ。
なんと愛着の湧く看板だろう。一切インスタ栄えに迎合しない、
無駄に全て同じ向きの看板たち。
見栄を張ることなく、まるでドン・キホーテのような驚安の配色で、
LAWSONとのセットがまた良い意味で似合っている。
良い意味で。
でも、予約してないし…ここもどうせ満席だよな…
そう思って入るものの、
しっかり空いてる。
金蔵は、ちゃんと空いてるのだ。
総席数160席。
外国人と日本人学生とパートのおばちゃんが一緒にホールを回している。
金蔵の前にも皆平等なのだ。
「いつでもあいつ忘れられたら、帰ってきてね」
他に目移りしてもそんな包容力が金の蔵にはある。
料金設定も飲み食べ放題3480円。安すぎるわけでもなく。高いわけでもない。
だから、しっかり空いている。
誕生日に300円キッチン行ったら営業のマジシャンがいて「誕生日プレゼントにマジック教えてあげるよ」とか言われてトランプのマジック覚えさせられた挙句、全員1000円ずつ支払う、
みたいなイベントも発生しないし、
やけにこの後輩、飲みに行く時○○どりにばっか誘うな…?と思ったら行くたびに会計の15%が裏でその後輩にキャッシュバックされてた、
みたいな奇妙な思い出も金蔵はない。
金蔵の前には皆平等なのだ。
入学当初から定期的に飲みに行っている同じ学部の浪人会は、過去13回中11回金の蔵で開催する羽目になっている。
結局金の蔵なんだ。
入念に下調べして、
緻密に計画を立てようとしても、
なぜか僕らは金の蔵に収束する。
会はたった4人だから、予約すれば入れない店はないのに、
気づいたらそこまで美味しいわけでもない唐上げを3皿頼んでいる。
原価の分からないアイスを適当に口に運んでいる。
秒で止まるカピカピのとまらんぼうをテーブルに放置している。
いつの間にか僕らは飲みに行こうより先に、「蔵」とLINEが飛ぶようにさえなっている。
1度収束した金の蔵から抜け出すことは最後までできなかった。
「なんでわざわざ?金の蔵どこにでもあるじゃん」
もしそう思ったのであれば逆に問いたい。
金の蔵に行くべき街なんてあるのか。
池袋といったら金の蔵だよね~そんな会話聞いたことない。
だから、高田馬場で、金蔵に行く。
どこにだって金の蔵はあるが、知ってても入らないなら知らないのと同じだ。
行動する人を笑う文化は、金蔵から終わりにしていこう。
金蔵のすすめ
もし読んでくれた早稲田生、新入生が居酒屋に迷う時があれば、ぜひ1度金の蔵へ行ってみてほしい。
底無しにちょうどいい快楽に溺れる人が4%くらいいるだろう。
「普段どこで飲んでる?」
死ぬほど繰り返したその押し問答に「金の蔵かな」と答える恥ずかしさには、未だ筆者も勝つことができていないが、
気の知れた友人と軽率に飲みに行く時は、
金の蔵くらいが、
くだらない話に没入できてよかったのだ。
今までありがとう金蔵。